*長編小説* 森の記憶

いつか失われる記憶の中で愛し合い、求め合い、精一杯生きる人たちの物語

2021-03-02から1日間の記事一覧

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「では涼と雄一郎さんに給与を渡しますので、二人と青龍、白虎の方は前にお願いします」 続く文ちゃんの号令で何人かが立ち上がり、前にぞろぞろと進み出て涼と雄一郎を囲んだ。甘利さんから二人に石が手渡され、それぞれが飲み込む。その様子を人々が固唾を…

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朝会は続いて、給与の支払いに移った。 文ちゃんや広樹の他、何人かが前に出て甘利さんから石を受け取る。神父姿の甘利さんが石を渡す様は、教会でパンをもらう光景を連想させた。 「前に……行かなくていいの?」 給与を受け取るはずの涼が腰を上げないことを…

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石をやりとりするということの重さを椎奈は改めて考えさせられた。 黄龍石も、そして広樹の言葉通り他の色の石も、元は全て誰かの額の石だったものなのだ。人が亡くなり、その石が脈々と受け継がれて、やがて別の誰かを生還させる。命は受け継がれているとい…

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朝会は村に新しく加わる人の紹介から始まった。 村に新しく人が加わるのは、椎奈のように新人として森にやって来た場合の他に、以前から森で暮らしていた人が新たに村に加わる場合の二パターンがあるという。梟を抜けて村に逃げてくる人がいると広樹が言って…

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「かわいいね。随分懐かれてるみたい」 「ああ、あいつは俺が保護したんだ。懐いてくれているし、かわいくて仕方がない。ただ、だからこそ……」 広樹は少し声を詰まらせた。 「だからこそ毎日気が気じゃない。子どもは早く死んでしまうことが多いんだ。石を集…

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この森に来てから二か月経つという広樹は、「何でも聞いてね。同じ朱雀だし、仲よくやっていこう」と椎奈に笑顔を見せた。 椎奈を襲った三人組は、椎奈が朱雀であることを理由に殺そうとしてきた。グループ内での石の数が限られている以上、同じ赤い石を必要…

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涼と同じように、広樹も木々の間を迷いなく進んだ。何か目印でもあるのかとまわりを見回してみたが、それらしいものはやはり何もない。 「俺や涼がそばにいれば、『梟』は襲ってこないから大丈夫だよ」 そんな椎奈の様子を、また襲われないか警戒していると…

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「この森には他にも元の世界と違うところがたくさんある。風はないし、生き物もいない。昼もないし、夜もない。暑くもないし、寒くもない。植物は成長しないし、枯れもしない。僕たちは食べないし、眠らない」 あまりのことに椎奈は唖然とした。さっき「説明…

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「そういうこともあってさ、いつも新人さんには、ここで元の世界の情報提供に協力してもらってるんだ。みんな気になってるんだよ、元の世界で今何が起きているのかって。だから勿論、情報提供には村から謝礼を支払うよ。朱雀の椎ちゃんには赤い石を一つ。軽…

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「次は五つ目の方法『オ.交換する』。これは単純。例えば僕が赤い石、椎ちゃんが青い石を持っていたら、それを交換するってことだよ。個々にやるのももちろん構わないし、村では共有財産と言う形で集めた石と個人の石を交換するという方法も取っている」 至…